「常識として知っておきたいクラシック音楽50」
中川右介著 河出書房新社
本の表紙には「あの名曲と作曲家についての教養が手軽に身につく本」とあります。
「教養」という言葉がなにやら堅苦しそうに感じますが、実際に読んでみると堅苦しさはまったく感じません。
この本は、楽しく「クラシック音楽の教養」を身につけたい方におすすめします。
今は、テレビドラマやCM、映画や漫画や小説、BGMなどいたるところでクラシック音楽が登場します。
でも、「むずかしい」「堅苦しい」というイメージが壁になって、なかなか楽しむところまではいかない人もいるでしょう。
「クラシック音楽には数百年の歴史があり人類の遺産だ。良い曲がたくさんある。楽しまないのはあまりにももったいない。
それに欧米の小説や映画を理解するためにもクラシック音楽の知識が欠かせない。
だから、ひととおりの知識を身につけて、日常にあふれるクラシックをもっと楽しもう。」
というのが、この本のテーマです。
著者は中学時代音楽の授業が嫌いで成績も悪く、当然ながら音楽の専門教育は受けたことがありません。
でも「クラシックジャーナル」編集長という肩書を持っているのです。
クラシック音楽の本を何冊も出版しています。
クラシック音楽の楽しみ、魅力に本当にハマってしまった人なのですね。
語り口はとても親しみやすい。
曲の解説や作曲家のエピソードは、TVドラマや映画、小説、アニメ、ポピュラーミュージックなどを引き合いに出し分かりやすい。
オペラの観方・聴き方という鑑賞法のコラムでは、何と野球の観戦法を使って説明してくれるのです。
思ってもみない意外な視点から驚くような解説もあります。
作曲家の著作権収入を調べ、その収入の多さからその作曲家の売れっ子ぶりを語るくだりです。
これなら「教養」を身につける本だといっても、つまらなくて途中で投げ出すおそれは絶対にありません。
題名の50の曲名と本の内容は次のとおり。
1.「さわり」だけでも聴いておくべき名曲中の名曲
- 運命 ベートーヴェン
- 未完成 シューベルト
- 悲愴 チャイコフスキー
- 新世界より ドヴォルザーク
- 巨人 マーラー
- 交響曲第40番 モーツァルト
- G線上のアリア バッハ
- 四季 ヴィヴァルディ
- 別れの曲 ショパン
- ボレロ ラヴェル
2.知らず知らずのうちに誰もが耳にしている有名曲
- ツァラトゥストラはかく語りき リヒャルト・シュトラウス
- 美しき青きドナウ ヨハン・シュトラウス
- 交響曲第5番 マーラー
- ワルキューレの騎行 ワーグナー
- ≪ウィリアム・テル≫序曲 ロッシーニ
- 惑星 ホルスト
- 白鳥の湖 チャイコフスキー
- ツィゴイネルワイゼン サラサーテ
3.世界中で上演されるつねに人気の名曲オペラ
- アイーダ ヴェルディ
- ボエーム プッチーニ
- カルメン ビゼー
4.数奇な運命の『第9』を越えようとした交響曲の傑作
- 交響曲第9番≪合唱≫ ベートーヴェン
- 交響曲第1番 ブラームス
- 交響曲第9番 ブルックナー
- 交響曲第9番 マーラー
- 交響曲第9番 ショスタコーヴィチ
5.知っていると鼻が高い巨匠の名演奏で知られる曲
- 大公 ベートーヴェン
- 無伴奏チェロ組曲 バッハ
- ゴルトベルク変奏曲 バッハ
- トスカ プッチーニ
- オテロ ヴェルディ
- 24のカプリース(奇想曲) パガニーニ
- 展覧会の絵 ムソルグスキー
6.ソロの演奏が冴える華麗なるコンチェルトの名曲
- ピアノ協奏曲第20番、第21番 モーツァルト
- 皇帝 ベートーヴェン
- ピアノ協奏曲第1番 チャイコフスキー
- ピアノ協奏曲第1番 ラフマニノフ
- ヴァイオリン協奏曲 メンデルスゾーン
- フルートとハープのための協奏曲 モーツァルト
7.音楽史を楽しく彩るエピソードあふれる名曲
- 英雄 ベートーヴェン
- 熱情 ベートーヴェン
- 幻想交響曲第 ベルリオーズ
- 交響詩≪前奏曲≫ リスト
- トリスタンとイゾルデ ワーグナー
- わが祖国 スメタナ
- 春の祭典 ストラヴィンスキー
- 浄められた夜 シェーンベルク
- 交響曲第5番 ショスタコーヴィチ
- マタイ受難曲 バッハ
- ニーベルングの指輪 ワーグナー
曲の解説の終わりには著者おすすめのCDがのっています。
基本はカラヤン指揮ベルリンフィルハーモニー演奏のもの。
なぜカラヤンなのか。その理由は、
- レパートリーが広く、たいがいの名曲を録音している
- 世界でもっとも有名で、もっともレコードを売っている
- つまり世界中で認められている
から。
カラヤン盤があれば迷わずにそれを聞くのが良い、というのが著者の方針です。
クラシック音楽ファンの中には、アンチ・カラヤン派が存在していますが、それは著者も承知のうえ。
まずはカラヤン盤で聴いてみる。
ここからは、管理人からのお願いです。
できることならその後で、別の指揮者の演奏も試し、聴き比べをして欲しいのです。
指揮者と演奏者が異なるだけで楽曲の印象は予想以上に変わってきます。
その違いを味わっていただきたい。
これがクラシック音楽の「聴き比べ」の楽しみです。
そしてさらに可能なら、好きな曲の「聴き比べ」を何度も行って、「これがこの曲のベストだ」という「究極の演奏」を探求して欲しい…。(もうマニアの域に近づいています)
そうなれば、この本でクラシック音楽の教養が身につくだけでなく、「聴き比べ」と「究極の演奏探し」という2つの楽しみ方を極めることになるかもしれないのです。
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